理事長あいさつ

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日本人工臓器学会理事長
松宮 護郎

 この度、一般社団法人日本人工臓器学会 第16代理事長を拝命いたしました。日本人工臓器学会は60年の長い歴史を持つ伝統ある学会です。その代表として理事長をつとめさせていただくことは大変光栄なことであり、その重責に身の引き締まる思いです。役員の皆様、会員の皆様の力をお借りしながらより良き学会にできますよう努めさせていただきたいと存じます。

 図らずしも今回の新型コロナウィルス感染流行下においてECMOが大きな注目をあびたように、人工臓器はわが国の医療において必要不可欠なものとなっています。人工視覚、人工聴覚、人工神経、人工心臓、人工肺、人工肝臓、人工腎臓、人工関節などあらゆる臓器の機能を代行する人工臓器を医療に応用したいという願望は古くから世界の工学者、医療者の夢でした。当学会はこれまでそのような人工臓器の開発、臨床応用、管理を行う人材の育成などにおいて大きな役割を果たしてきました。今後、さらなる人工臓器の発展のため当学会が果たしていくべきミッションとして、下記のような点を推進していきたいと思います。

1.日本発の人工臓器を患者さんのもとへ;種々の新しい人工臓器の研究開発、その臨床応用のための事業化支援、より幅広い適応に関する議論などにおいてリーダーシップをとり、困っている患者さんにいち早く新しい人工臓器を届けることが最も大きな使命と考えます。臨床従事者、機器開発者、レギュラトリーサイエンスなど幅広い分野の専門家の集まる当学会こそが、患者さんの役に立つ新しい人工臓器の開発とその臨床応用を実現化していくことが可能であると信じています。

2.多領域化;組織工学、ナノバイオテクノロジー、ロボット、AIをはじめとした新しい領域への展開も必須であり、これまでの医学と工学の協調に加えて、新分野との融合発展も重要な課題であると考えます。

3.人材育成:研究者、多くの職種にわたる医療従事者などが当学会に所属していただいております。その学術活動を学会での発表、セミナーなどを通じて支援し、また学会運営にも積極的に参加していただけるよう心掛けていきたいと思います。また、新しいデバイスの情報をいち早く届け、安全に全国で使っていただけるよう、さらなる教育プログラムの充実を図っていきたいと思います。

4.国際化:IFAO, ESAO,ASAIOなど関連国際学会と密接な連携をとりながら、歩調を合わせて研究、臨床応用を進め、会員の皆様への情報共有に努めたいと思います。また、アジア諸国でも人工臓器への関心は高まる一方であり、当学会はリーダーシップをとってその発展を図るべくアジア環太平洋人工臓器学会(APSAO)を設立いたしました。さらなるアジアでの人工臓器研究および臨床の発展に努めていきたいと思います。

5.人工臓器を使う患者さんをより幸せに;人工臓器は医療施設で使われるもののみならず在宅でも使用されています。このような患者さんの多くがどんどん社会に出て様々な面で貢献していくこと願っておられます。しかし、現状は必ずしもそのような患者さん達にとって好ましい状況ばかりとは言えないことは明らかです。より在宅で使いやすいデバイス、社会復帰、復職のための環境整備など社会、行政に働きかけを強めたいと思います。

 幕末の志士、吉田松陰の残した言葉に「夢なき者に理想なし 理想なき者に計画なし 計画なき者に実行なし 実行なき者に成功なし 故に夢なき者に成功なし」というのがあります。人工臓器で患者さんを幸せにするという夢と理想のもとに、その推進のため、障害となっているものを除くためにしっかり議論して計画を立て、それを着実に実行していく。これこそが我々に課せられた使命と心に刻んで当学会の運営に努めていきたいと存じます。

 今後とも皆様のご指導、ご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。