人工心臓

人工心臓って何?

 私たちの心臓は血液循環を司るポンプの役割を果たしています。心臓の中の左室は肺から戻ってきた血液を全身に送り出し、右室は全身から戻ってきた血液を肺に送り出しています。人工心臓とは、自分の心臓のポンプ機能が弱ってしまった患者さんに対して、その心臓のポンプ機能を機械で代行させるものです。

 人工心臓開発の発端は米国の心不全による死亡率の高さでした。1964年に連邦保健局に人工心臓プログラムが発足し、人工心臓の開発が本格化しました。一方、1967年には南アフリカで世界初の心臓移植が行われ、末期重症心不全の治療としての2本柱が出揃いました。

 人工心臓の種類は大きく2つに分けられます。ひとつは自分の心臓を残して、心臓の左室(または右室)から血液を吸引して大動脈(または肺動脈)に送り出すもので、“補助人工心臓”といいます。もうひとつは自分の心臓(心室部分)を取り除いて、2つの血液ポンプに置換してしまうもので、“完全置換型人工心臓”といいます。(図1)

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図1

 人工心臓は様々な病状の患者さんに用いられますが、その中でも代表的な目的として以下の2つが挙げられます。ひとつは心臓移植のドナー(心臓の提供者)が見つかるまでの一時的な使用(ブリッジ使用)です。もうひとつは長期にわたり人工心臓とともに在宅で質の高い生活を送ることを目的とする使用(長期在宅補助人工心臓治療)です。

 人工心臓開発の発端は長期在宅治療が目的でしたが、数々の問題のために長期使用に耐えうるものがなかなか完成しませんでした。そんな中で末期重症心不全のもう一つの治療法である心臓移植は、技術的にも進歩を遂げ、治療法の一つとして確立されました。そこで登場してきたのがブリッジ使用としての人工心臓の応用でした。1990年頃からはこのブリッジ使用としての左室補助人工心臓が主流となりました。

 ブリッジという限られた期間の使用を積み重ねることによって人工心臓の技術は患者のQuality of Life(生活の質)を向上させるべく進歩していきました。そして、1990年代末頃から米国において長期在宅治療を目的とした補助人工心臓の臨床応用が始まりました。日本でも2020年に補助人工心臓が長期在宅治療を目的として保険適用されています。

 人工心臓の開発当初は大きな機械(コントローラーやバッテリーなど)が体外にケーブルで連結されて病院内で生活していましたが、現在では大きかった機械は患者のウエストポーチサイズになり、バッテリーを交換することで長期にわたる在宅での治療も可能となりました。(図2)

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図2

 人工心臓本体も小さくて血栓ができにくい血液ポンプをめざして開発が進められました。初期には体の外に設置されていた(体外設置型)人工心臓本体は、小型化されて体内に植え込むことができるようになりました(植込型)。しかし、当初は拍動流式ポンプ(図3)で、弁当箱くらいの大きさのために植え込みができる体格に制限がありました。これに対して登場したのがロータリーポンプと呼ばれるもので、羽根車の回転によって血液を送り出すしくみです。ロータリーポンプの主なタイプには軸流ポンプ(図4-1)と遠心ポンプ(図4-2)があり、どちらも小さいので普通の体格の成人であれは容易に植え込めます。これらのポンプは2000年から臨床治験が始まり、その後まず欧米において実用化されました。日本でも2005年から臨床治験が行われ、現在ではこれらのポンプが実際の人工心臓治療の主流となっています。

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(図3)
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(図4-1)
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(図4-2)

 人工心臓は米国における開発の創成期から現在に至るまで多くの日本人研究者が関わっており、日本の功績が大きい分野です。ロータリーポンプは羽根車の回転で血液を送り出しますが、この回転を安定させる羽根車の軸をケーシング(血液ポンプ容器)で支える必要があります。その方法として従来はコマのように接触して支えていましたが(接触軸受)、この部分で血液が壊れたり血栓が生じたりする問題がありました。これに対して、電磁石を用いてケーシングの中で羽根車を浮上させて接触しないで支える技術(非接触軸受)を開発し、日本が世界に先駆けてこの磁気軸受を使った植込型補助人工心臓を臨床導入に成功しました。現在、磁気軸受の技術はこれまで世界中で最も多く使用されてきた接触軸受を使った軸流ポンプを席巻しています。

 人工心臓の治療技術は多様化もしています。一例を挙げると、これまで示してきた補助人工心臓は開胸手術によって心臓と大動脈の間などに取り付けるものでした。これに対し超小型のポンプを開胸手術することなくカテーテルで心臓に挿入することによって緊急で循環を補助する装置が開発されました。これは”経皮的補助人工心臓”と呼ばれるもので、日本では2017年に保険適用されています。人工心臓は末期重症心不全の治療方法として着実に進歩してきました。研究開発は現在も日進月歩に進んでおり、今後もその進歩が期待されています。

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