医療材料について Q19
Q19 医療用材料に放射線を照射するときに注意すべき点を教えてください。
(A19) 人工臓器分野における放射線の利用は医療用具の滅菌が主体です。高圧蒸気滅菌、ガス滅菌(エチレンオキシドガス)、薬液による滅菌の対象にならない医療器具の滅菌に、γ線滅菌が用いられています。対象となる材料は多くの場合、高分子化合物ですので、その耐放射線性について概説します。
放射線による高分子材料の劣化は主鎖切断型と架橋型に大別でき、材料の化学構造に依存します。主鎖の炭素に水素がない場合、例えばポリテトラフルオロエチレンでは主鎖切断型劣化、水素が多く結合している場合、例えばポリエチレンでは架橋型劣化を起こりやすくなります。一般に架橋型の方が主鎖切断型より耐放射線性に優れています。芳香族系の置換基を持った高分子(例えば、ポリスチレン)は構造上、吸収した放射線エネルギーを非局在化できるため、優れた耐放射線性を示します。一方、フッ素系(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)では耐放射線性は低いといわれています。
【汎用高分子の耐放射線性の比較】
ポリスチレン>アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合物>>
ポリ塩化ビニル>ポリカーボネート>エチレン-プロピレン共重合物>酢酸セルロース>ポリプロピレン>ポリメタクリル酸メチル>ポリアミド(ナイロン)>パーフルオロエチレン-プロピレン共重合物>>
ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)
参考文献:大澤善次郎:高分子の寿命予測と長寿化技術, NTS, 1992, p.111
(三重大学大学院工学研究科分子素材工学専攻生体材料化学研究室 堀内 孝)