人工血液について Q10
Q10 人工血液の現状について、教えて下さい。
(A10) 人工血液の開発の経緯は古く、1960年代から続けられています。人間の血液は大きく分けて、液体成分である血漿と有形成分である細胞に分けられます。細胞のうち、血液の最も重要な役割である酸素運搬を担っているのが赤血球で、血液を固める役割を担っているのが血小板です。人工血液の開発の大部分は、この赤血球と血小板の開発です。
人工赤血球の開発の方法には二つの考え方があります。一つは酸素をよく溶かし込めるパーフルオロカーボン(PFC)という物質を用いるもの、もう一つは本物の赤血球と同じように酸素と結合できるヘモグロビンを用いるものです。PFCは酸素をたくさん溶かし込めるので、水と混合して強烈にかき混ぜて牛乳のような乳化液として用います。PFCは体には無害ですが、血液の中で乳化した粒が不安定になり、血液を凝固させて詰まらせたり、臓器に影響を及ぼしたりするといわれています。ヘモグロビンを用いる方法では、血液から分離したヘモグロビンを、油の分子を使って作製したカプセル内に封じ込めます。血液と同じような酸素運搬能を有しますが、こちらもカプセルが不安定で血中で壊れたり、毛細血管に詰まってしまう問題がありますが、最近の技術革新によりかなりの問題が克服されつつあります。近い将来、脳卒中や心筋梗塞など緊急に臓器に酸素を供給する必要のある場合から応用が始まることでしょう。
(東京医科歯科大学生体材料工学研究所 岸田晶夫)