リレーエッセイ

2025.05.20

第16回:人工臓器開発とレギュラトリーサイエンス

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作者プロフィール
氏名:池田浩治
所属:東北大学病院臨床研究推進センター 副センター長/開発推進部門長


 “レギュラトリーサイエンス”と聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか。多くの読者にとってレギュラトリーサイエンスは身近な言葉ではなく、何となくわかる気がするけど身近とは言えない言葉ではないでしょうか。レギュラトリーサイエンスについては、医療機器等の評価の科学の側面として理解がされている一方、本質というべき判断の科学としての理解は進んでいないと感じます。ここでは医療機器開発にとって欠かせないレギュラトリーサイエンスについて、述べてみたいと思います。

 筆者は東北大学病院臨床研究推進センター(CRIETO)において、研究成果を実用化に繋げる開発支援を業務としています。CRIETOでは、東北大学内に留まらず全国のアカデミアや企業が医療機器等(創薬や再生医療含む)の実用化を目指す方を支援の対象としていますが、その中で数多くの開発事例を見てきました。CRIETOに入職する前は、PMDAにおいて医療機器の薬事承認審査を10年ほど担当しておりましたので、相当数の医療機器開発を見ることができました。人工心臓や人工血管、人工心臓弁などの審査を担当しておりましたので、会員の皆様の中には記憶にある方もおられるかもしれません。

 医療機器開発、特に人工臓器のような革新的な技術を用いる医療機器であり、リスクも小さくない医療機器の場合、どこまでベンチテストで評価できればよいのか、どこまで動物を用いた評価をすれば人に使ってよいのか、悩む事例は少なくないと思います。その際に有用であるのは、評価項目等が記載されている開発ガイダンスなどの存在ではないかと思います。これが評価の科学としてのレギュラトリーサイエンスですが、例えば開発ガイダンスが無い技術に対する評価をどのようにすればよいかについては、悩んだ経験を持っているのではないでしょうか。

 革新的な医療機器の評価においては、ガイダンスも無いことが通例であり、動物を用いた評価系すら十分ではないことは少なくありません。そのような場合、人に初めて使用する際にどのような評価をしておくべきか、もしくは薬事承認を与える場合にどの程度のエビデンスが必要であるかについて、明確な基準をもって判断することは極めて難しいと思われます。そこで登場するのがレギュラトリーサイエンスに基づいた考え方です。

 レギュラトリーサイエンスが公的文書で定義されたのは、第4期科学技術基本計画であり、その定義は「科学技術の成果と人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果と人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学」とされています。この定義には、新しい技術(科学技術の成果)を人と社会に役立てることを目的に、根拠(エビデンス)に基づく予測、評価、判断を行うと書かれており、まさに人に初めて用いる判断や承認審査の判断に該当します。その判断においては、人(個人)と社会(集団全体)との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学と書かれており、個人の利益や安全性を可能な限り守り、集団全体の利益を損ねないこととの調和の中で最適な形になるよう調整するのが、レギュラトリーサイエンスの考え方と思われます。レギュラトリーサイエンスを革新的な医療機器開発の根底に置くことで、科学的妥当性だけでなく社会受容性を確保した開発が可能になると考え、数多くのFIH試験の実施、薬事承認の取得に繋げてきました。今後、この領域での開発を活性化していくためにも、皆様とレギュラトリーサイエンスの考え方を深め、社会に受け入れられる開発を推進できれば幸甚です。

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