リレーエッセイ

2023.10.19

第12回:本邦への植込型LVAD臨床導入とそのエピソード

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作者プロフィール
氏名:許 俊鋭
所属:東京都健康長寿医療センター センター長
   補助人工心臓治療関連学会協議会初代代表


 わが国の補助人工心臓(VAD)開発は1958年の東京大学木本外科の渥美和彦らの研究に始まり、私が心臓外科チーフレジデントを務めていた1980年5月に三井記念病院において最初の臨床使用が行われました。1990年に日本心臓移植研究会は、私が勤務していた埼玉医大を含め8施設を心臓移植実施施設に認定し、埼玉医大では1992年に拡張型心筋症(DCM)例に対して東洋紡VADによる心臓移植へのブリッジ(BTT)を開始しました。心臓移植先進国の米国では、空気圧駆動HeartMate IP LVADが1991年にFrazier(Texas Heart Institute)によりBTT使用され、急速に第一世代拍動流植込型LVAD(HeartMate、Novacor)がBTT使用の主流を占めるようになりました。


 私は、日本における長期の心臓移植待機に植込型LVADが不可欠と考え、主な医療機器メーカーにHeartMate IPの導入のお世話を依頼しましたが、全く相手にしてもらえず、結局に伊藤忠商事に導入手続きをお願いしました。輸入には製造元のThoratec社の販売許可を得る為に米国での講習・手術トレーニングを受ける必要がありました。1991年秋に私と野田裕幸講師、見目恭一ME技師長3名がFrezier教授の研究室でHeartMate IPの牛への手術トレーニングのために渡航し、この時、米国伊藤忠商事でHeartMate IPの日本導入手続き一切のお世話をして頂いたのが、後の㈱日本J & J社長であり、その後㈱カルビー会長として活躍された若き日の松本晃氏でした。HeartMate IPは埼玉医大で1995年3月に41歳男性のDCM症例に最初に装着され、国内で都合18例に使用され渡航移植等で活躍しました。


 1997年の臓器移植法の施行以降、日本でも電気駆動のNovacor とHeartMate VEの臨床治験が始まり、2004年にNovacorが日本で最初のBTTデバイスとして承認されましたが、非現実的な保険償還条件のために2年間に僅か8例に使用されたのみで本邦市場から撤退しました。日本は再び30日使用の体外式VADをBTT使用する状態に逆戻りしたため、私達は8つの関連学会・研究会を糾合し補助人工心臓治療関連学会協議会(VAD協議会)を設立し、第二世代連続流植込型LVAD(EVAHEART, DuraHeart, Jarvic2000, HeartMate II)の早期導入を目指して、学会横断的な活動を開始しました。
 Novacorの撤退の要因を、①デバイスコスト・在宅安全管理料に非現実的な保険償還しかされなかった事、②植込型LVAD実施施設認定が厳しく、僅か2施設に限られ植込型LVADの国内市場が形成されなかった事、③全国的にVADコーディネータを含む医師・看護師・ME等の人材育成がされていなかった事、によるものとして、これらの課題の解決に全力を尽くしました。
 日本全国(5か所)に定期的なVAD研修コースを設立し、VAD専門医師(植込型LVAD実施医・管理医)を育成認定すると共に、人工心臓管理技術認定士制度を構築し看護師・臨床工学技士のVADコーディネーターの育成に注力しました。更に、植込型LVAD実施施設・管理施設を全国的に設置することを目標に学会主導の施設認定制度確立を目指して、厚生労働省(長妻厚生労働大臣)に7万人の署名をもって強く要望しました。一方、植込型LVAD治療成績を担保するため、実施基準(在宅安全管理基準等)を定め、「重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン」を作成し、植込型LVAD症例の全例レジストリー(J-MACS)をPMDAと協力して構築しました。


 もう一つの難題は合理的な保険償還条件を獲得する事でした。外保連・医機連の協力を得ると共に、Novacor 保険償還に関わられたE社のM氏に、Novacor 保険償還の経緯を説明して頂き、問題点を解決するための貴重な意見を頂きました。国産植込型LVAD(EVAHEART, DuraHeart)の臨床治験が成功し、2010年~2011年に製造販売承認と保険償還決定の大詰めを迎えました。
 この時、中医協専門委員を務められていた松本晃氏(カルビ会長)が、突然私の東大の「重症心不全治療開発講座」を訪ねて来られ、植込型LVADの本邦導入について聞かせて欲しいとおっしゃいました。20年前にHeartMate IPの導入をお世話して頂いた松本氏とは全く気付かず、「どうしてカルビの会長さんが植込型LVADの事をお聞きになりたいのですか」と尋ねてしまいました。松本氏は「許先生、私を忘れたのですか? 日本に初めて植込型LVADを米国から導入するのにあなたと一緒に頑張った松本ですよ。今、中医協の専門委員をやっているのですよ。」と仰ってようやく20年前にテキサスに一緒にHeartMate IPのトレーニングを受けに行った松本氏と分かり、失礼を深くお詫びした次第です。松本氏は、自分が日本で初めての植込型LVADを米国から導入したと自負しておられ、日本の心臓移植に植込型LVADの臨床導入が不可欠であることをよく理解されていました。また、私がVAD協議会代表であることもご存じで、「是非、頑張るように」と励ましを頂きました。多くの方々の励ましやご指導のおかげで、今日の優れたVAD保険償還システムと全国市場が構築されたと申し上げても過言ではありません。松本氏は、あと調べて見るとNPO法人「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」の理事長を務められ、日本にとって臓器移植やがん治療を担う若手外科医の育成が喫緊の課題として活動されていることが分かり、私も直ちにこのNPO法人の会員にして頂きました。


 また、植込型LVAD施設認定についても、2011年2月末のぎりぎりになって保険局医療課S課長が当面は心臓移植施設に限りたいと連絡して来られました。それに対して私とNCVCの中谷武嗣部長が強力な反対陳情を展開しましたが、君達が大半のVAD関係者の意見の代表とは思えないとS課長にこっぴどく批判されました。そこで全国の主だったVAD治療関係者100名以上に実情を訴え、直接S課長に陳情電話をかけて頂くようにお願いしました。10日以上に亘るひっきりなしの陳情電話にS課長もついに音を上げて一言「分かった」とおっしゃって頂き、今日の学会主導の植込型LVAD施設認定制度が確定しました。


 今日、日本の植込型LVAD治療は5年生存率80%以上と世界に冠たる治療成績を上げており、私はVAD協議会の産官学を挙げた活動により、日本全国どこでも植込型LVAD治療が受けられる基盤が構築されたと自負しております。2017年にVAD協議会代表を澤芳樹教授に引き継いで頂き、1980年以来の私の長い人工心臓人生も一応の区切りを迎えた次第であります。


図説
(左上) Texas Heart InstituteでのHeartMate IP LVADトレーニング(1991年).
右:松本晃氏、中:Frazier教授、左:筆者
(左下) 世界最初のHeartMate IP装着症例(右:Templeton氏、左:筆者)
(中・右) 埼玉医大で最初にHeartMate IPを装着したOHさんとレントゲン写真(1995年)
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