リレーエッセイ
2022.12.07
第9回:未来への想像力と行動力
作者プロフィール
氏名:吉田幸太郎
所属:大阪大学医学部附属病院臨床工学部
役職:主任
はじめに
10年後、20年後はどのような人工臓器が開発されているか?筆者は妄想が大好きなので沢山の未来像を描いている。最近、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をテレビで拝見した。子供の頃に一番好きだった映画である。劇中の2015年では空飛ぶ車が実用化されており、空中ハイウェイも設置され、猛スピードで何台もの車が飛び交っていた。残念ながら現実ではそのようなことは起きていないが、もしこの映画で医療の話があればどのような人工臓器が開発されていたのか、想像するだけでもワクワクする。
さて、少し自己紹介をしながら、今後の臨床工学技士の未来像を一緒に妄想できればと思う。私は2002年に国立循環器病センター臨床工学部に入職して以来、いい意味で人工臓器まみれの生活をしていた。最初は非常勤(レジデント)から始まり、1年目から人工心肺を操作した。5年目からECMO担当の責任者となり、毎日人工肺の血栓とにらめっこである。手術後の重症な呼吸循環不全症例に導入することが多く、小さな赤ちゃんから老人までたくさんの患者さんに用いたが、救命できなかったことも多く、日頃から「どうすれば救命できたのか?反省点と改善策はないか?」と臨床工学技士の立場ではあるが、苦悩しながら医師とディスカッションしたことをよく記憶している。
研究の重要性
私が研究の重要性を認識するきっかけとなったのが、国立循環器病研究センター人工臓器部と共同で開発した新たな小児ECMOシステムの研究である。その当時わが国では赤ちゃんに適した優れたECMOシステムが存在していなかった。2、3日で人工肺の酸素化が低下し、溶血もかなりの頻度で発生していた。耐久性および抗血栓性に問題があり、さらに早期にECMOを導入するためには回路のプレコネクト化と簡便なプライミング方法が課題であった。その問題を解決するために新たなECMOシステムを開発し、その有用性を証明するために動物実験を実施した。このような動物実験も初めての経験であった。既知の研究内容を把握し、現状ではどのような問題があり、それをどのように解決して証明するのか、この経験が研究の重要性を認識できた筆者のターニングポイントであった。
臨床工学技士と人工臓器の未来
その後、2017年から大阪大学医学部附属病院に移ってからは補助人工心臓(VAD)の責任者となった。現在では「e-learningを用いた患者・介護者に対するVAD遠隔教育の構築」や「人工知能を用いたVAD管理における安全性の構築」などを臨床業務の合間に研究している。今後、再生治療や人工知能を用いた研究や治療、医工連携による医療機器開発などが進歩すると予想される。未来を妄想するには打って付けの領域である。筆者はこのような新たな未来の可能性を信じ、独学で人工知能を学び始めている。そして、医療機器開発に関しても医療機器イノベーションを牽引する人材育成プログラムであるジャパンバイオデザインの5期フェロー(2019年)となり10ヶ月間活動した。この活動では医療機器開発の知識向上はもちろん、イノベーションを実現するアプローチ方法を学ぶことができた。医療従事者でありながら、ビジネススキルも学ぶことで多面的な思考が芽生える。このように人工臓器は私の妄想力(想像力)と行動力を養う“きっかけ”になったことは言うまでもない。
臨床工学技士は医師の働き方改革により、様々な領域の業務に今後参入するだろう。タスクシフトすることで人工臓器を用いた業務が増えるかもしれない。10、20年後はどのような人工臓器が開発されているのか。3Dプリンターのような機器で再生治療を応用した臓器開発ができれば、パーマンのコピーロボットのような分身がもしかしたら作ることができるかもしれない。未来には何が必要か、臨床工学技士は何ができるか、思考しなければ何もできない。常に考えながら人工臓器開発に臨床工学技士も携われることを願っている。