リレーエッセイ

2022.01.21

第7回:人工臓器と私と体外循環

photo

作者プロフィール
氏名:徳嶺朝子
所属:近畿大学生物理工学部医用工学科
役職:講師


 名だたる先生が揃う中、今回のエッセイの作者として立候補いたしました。私はエッセイ企画者です。著明な先生方のおもしろいエッセイを期待してしましたら、申し訳なく思います。最初に、このエッセイを企画した背景を簡単に紹介いたします。
 当会は、様々な分野からなる研究者・医師・メディカルスタッフ・学生等から構成されています。研究から人工臓器にアプローチする先生もいれば、医療から人工臓器にアプローチする医師・技士/技師も多くおられます。このエッセイページでは、主に会員様を対象として、どのような研究を行っている/行ってきたのか、人工臓器を扱う仕事に就く医療従事者(メディカルスタッフ)はどのような職種があるのか等々、紹介できればと思いました。キーワードは、広義での「人工臓器」がテーマです。先生方の研究話、笑い話、苦労話、つらかったこと、そしてなぜ人工臓器研究だったのかなど、本当に自由に語っていただけたらと思いました。学生時代の私にとって、人工臓器学会はあこがれの学会でした。先生方の軌跡を知り、自らを奮い起こしたい、という想いが強かったのかもしれません。
 今後執筆をお願いすることもあると思いますが、可能な限りでぶちまけていただけましたら本当に嬉しく思います。1つでもアーカイブ記事が増えることを願っています。


 さて、私と人工臓器について少しお話させてください。会員になったのは(はるか遠い昔)学生の時です。人工臓器学会は当時の私にとって憧れの場でした。学会発表では、教科書に執筆する先生方が目の前にいて、私の未完でまとまりのないプレゼンテーションに対して意見をいただける。正直最初の発表は全く記憶がありません。ただ懇親会での〇先生や△先生のほろ酔い姿の笑顔は鮮明に覚えています。私もワイン片手に先生方と一緒にディスカッションしたい!と強く思ったものです(笑)。私の最初の研究テーマは、補助人工心臓VADの開発でした。流体解析などを駆使し最適なVAD形状を考案しました。その後、担当教授が人工心肺のシミュレータソフトの開発を行っていたこともあり、シミュレータの開発とそのシミュレータを使用した教育効果について研究を行いました。2000年に開発したこのシミュレータは、Extracorporeal circulation simulator, ECCSIM1)として発売されています。医師や体外循環技士らの訓練に効果的に利用されています。本シミュレータは記録装置を備えているため、体外循環に使用する安全装置などの評価にも応用できます。貯血槽安定化装置(OLC)2)の定量評価なども私たちの研究室で行ってきました。そして、体外循環シミュレータの研究開発を通して、体外循環技士の操作には一定の操作条件があるのではないか、と考えました。現在は、人工心肺装置の準自動循環制御システムの開発を行っています。


 私が体外循環に関する研究を始めた当時、体外循環の分野は解明すべき問題が多くありました。現在でも多くの問題点がありますが、体外循環について勉強すればするほど魅了され、なぜ体外循環が必要なのか、心臓を停止させるときだけに使用する人工心肺システムは、血液循環を維持するためだけに使用されればよいのか、もっと侵襲の少ない方法はないのか、など疑問だらけでした。人工心肺の操作は専門の技術者が行いますが、操作方法は安全を重視しているにもかかわらず、患者ごとに操作条件を変えることはほとんどありませんでした。私の大事な人が心臓手術をすることになったと想像したときに、不安に感じたこともあります。完全なマニュアル操作は、オーダーメイドとして映れば聞こえはよいですが、安全意識が統一されていない状況下で操作があれば不安でしかありません。認知科学の研究者ともディスカッションしますが、人工心肺は究極的なシステムにもかかわらず把握しなければならない情報が多すぎる。人が操作できることとシステムとして機械が操作すべきところがあると思います。開心術では執刀医の指示で操作を行う必要はありますが、基本的には術野の進行を把握しながら、適宜操作条件を調整する必要があります。人工心肺装置は、術中の心臓の代わりですので、送血ポンプを停止させることは絶対にありません。送血が確実に維持されるようにシステム化できないか、考えました。私自身、常に未来を見て研究を進めています。10年後には、心臓を止めるような侵襲の高い手技は確実に減少すると思いますが、血液循環を停止させなければできない技術もゼロではないはずです。10年後には、より安全に人工心肺操作が自動で行われていると信じています。

一般の皆様へ

会員ページ 会員ページ
Member’s login

書籍・DVD・テキスト 書籍・DVD・
テキスト
Books, DVD & TEXT

リレーエッセイ リレーエッセイ
Relay essay

プロモーション映像

一般社団法人
日本人工臓器学会

〒112-0012
東京都文京区大塚5-3-13
D's VARIE 新大塚ビル4F
一般社団法人 学会支援機構内

TEL:03-5981-6011
FAX:03-5981-6012

jsao@asas-mail.jp