リレーエッセイ

2021.09.28

第6回:COVID-19に学ぶ ~常にPositive Thinking!~

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作者プロフィール
氏名:塩瀬 明
所属:九州大学大学院医学研究院循環器外科
役職:教授、情報広報委員会担当理事


 COVID-19は世界中を変えた。人々の生活様式、これまでの在り方すべてを変えた。
 不本意ながらあらゆるものを変えたコロナは凄い!!何かコロナから見えてくることはないか。
 最近、そんなことを考えるようになった。


 言うまでもないが、コロナ禍において医療界にも大きな変化が起こっているように思う。
 第一に、昨年から医学雑誌への論文投稿数が激増している。Impact Factorも上昇し、雑誌によっては2倍以上にもなっている。多くの施設で医療が逼迫し、厳しい現状がある一方、論文への関心が高まり投稿数が増え、良い論文が生まれる結果になっている。なんとも皮肉なものである。


 第二は「働き方改革」である。「外科医の働き方改革」が謳われて長い。個人的には「看護師には夜勤日勤があるのに、どうして医師にはないのか」と思わなくはなかったが、しかし自分も含め心臓血管外科医は頑固集団。職人肌で臨床第一、どちらかというと机上の事務仕事、書き物は苦手、そのような人が多いのではないだろうか。それ故か、なかなか「働き方改革」の実現は難しいのが現状であった。
 ところが、コロナ禍により働き方も変わりつつある。例えば時差出勤。心臓血管外科を標榜する中にも取り入れている施設があると聞く。各診療科を含む病院全体、医療スタッフ、様々なことが変わっていく。
 「Stay Home」。日本中のスローガンとなったフレーズである。働き方改革に伴い、コロナ禍がもたらす生活様式の変化によって、家族と過ごす時間や家族間のサポートの大切さ、時間の使い方を見直す良い機会となっているようにも思う。


 第三には、「コミュニケーション」である。最近はオンラインが当たり前になっている。確かにオンラインは便利なことがたくさんある。同時に、直接相手の顔を見て、声を聴き、相手が何を思っているかを肌で感じる「対面でのコミュニケーションの大切さ」を痛感する今日この頃である。当たり前のことがそうでなくなっていくと、今までの「当たり前」がいかにかけがえのないものであったかを実感する。
 「オンライン・WEB」がなくなることはないだろうが、「対面」を大切にしながら上手に「WEB」を取り入れていく、これからの時代に求められることであろう。


 環境の中でいくつかが共存するためにはバランスが非常に大事である。雨がなければ飲み水がなくなり、ゲリラ豪雨ばかりだと命を落とす人が出てくる。
 COVID-19は依然猛威をふるっている。しかしウィルスは単体で生き続けることはできない。ホストに寄生して生き延びていくが、猛威を奮い続けるばかりではホストを食いつぶしてしまい、やがてホストがいなくなれば自滅するしかない。今、すべてのバランスが崩れてきているような気がする。
 このバランスという点は、実は「循環器領域」にも同じことがいえる。「心臓血管外科」と「循環器内科」は両輪で働いていく必要がある。
 最近の循環器内科の治療領域の広がりは目覚ましい。例を挙げると「PCIの症例数」。日本ほど冠動脈疾患に対するPCIの症例数が多い国はほかにはない。「弁膜症」についても同様で、「TAVI(経カテーテル大動脈弁治療)」の開始に伴い、AVR(大動脈弁置換術)の減少が懸念された。それがあっという間にTAVI治療はAVRに追いつき、海外ではAVRの症例数を越した。「大動脈ステント術」は海外では内科医が始めているという。今やそういう時代に突入している。
 内科治療領域の広がりにより、心臓血管外科医の対応も求められるが、そこにもやはりバランスが大切である。例えば外科医が「PCI」領域に乗り込めば、内科医が手掛ける患者が減少し、結果紹介患者が減ることになる。治療領域の変化に合わせて、内科・外科のあり方も変わっていかなければならない。


 大学の使命として、環境のバランスをとるために必要なことは何か、毎日模索しながらやるべきことは全力でやっていきたいと考えている。「現状維持は衰退なり」という言葉を自身の戒めに、日々少しでも新しいことを探し、良いものがあれば医局全体に伝え、良いバランスがとれるような日本の循環器領域を創っていきたい。

 私が「COVID-19から学ぶこと」である。

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