リレーエッセイ

2019.04.04

第3回:人工臓器を利用する者として

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作者プロフィール
氏名:安野 誠
所属:群馬県立心臓血管センター技術部臨床工学課
役職:技師長

はじめに

 今回、リレーエッセイということで前回の執筆された百瀬直樹氏よりバトンを受けた。私が百瀬氏と出会ったのは1998年で、前回のエッセイで紹介された閉鎖式回路について質問させて頂いた時と記憶している。かれこれ20年来のお付き合いをさせて頂いている。
 このエッセイでは、私のような臨床畑の人間が人工臓器学会で行った活動の紹介と後半は自身がウェットラング対策を研究した頃のエピソードを交えて紹介し、この学会に加入する多くの臨床工学技士の参考になる、あるいは背中を押すことが出来るかもしれないと想えたので執筆させて頂く事とする。

人工臓器学会との関わり

 私が技士として業務を始めたのは1985年、人工臓器学会への入会は1988年だった。人工臓器学会の魅力は学術大会で医師と同じセッションで口演できることに意義を感じ、1991年から大会に参加した。学会活動に参加する機会が頂けるようになったのは、冨澤康子先生が人工心肺のシミュレーショントレーニングの必要性を発信される中で、百瀬氏を通じてお声がけ頂き、2006年、07年「人工心肺の基本操作とトラブル対処法1」、「人工心肺のトラブル対処法2」のDVD作成に出演した。その後は大会ごとに開催される人工心肺シミュレーショントレーニングのインストラクターなどで関わらせて頂いた。2013年からは評議員として教育・臨床工学(体外循環)委員会、医療安全委員会の委員としての活動やセミナーでの講演、認定試験委員として学会に関わらせて頂けた。

エネルギーの源 〜起死回生のECMO〜

 私が仕事を始めた頃のECMOシステムはフォロファイバー型・内部灌流式の膜型人工肺を利用して、回路構成はシートリザーバーを利用した半閉鎖回路だった。ECMOを開始すると医師との合宿生活が始まるため好ましくないのだが、なぜか好きだった。理由は、医療チームの一員として教育や情報共有する環境に携われたこと、じっくりと考える時間があったこと、その経験の中で社会復帰された患者がいたことなどの成功体験があったからだと思う。私の教育担当をされた中島博先生からは「補助循環は患者にとって起死回生の一打になる、チャンスがあるから良く考えろ」と激励を受けていたことはとても懐かしく、今でも私のエネルギー源である。

人工臓器を理解すること

 人工臓器の研究開発は弛まなく行われ、その成果が臨床の現場に提供されている。しかし優れた人工臓器であっても課題はあり、我々臨床家はそれを理解した上で人工臓器の能力を引き出しながら患者に利用しなければならない。
 人工肺の課題にウェットラングがある。人工肺の中空糸内には結露水が発生し、送気ガスの通過が妨げられ、ガス交換能力を低下させるため除く必要がある。一般的な方法は通称フラッシュという方法で、数時間ごとに10L/分程度の送気ガスを10秒程度人工肺に流し、ガスの圧力で結露水を吹き飛ばしている。我々もフラッシュ作業を行っていたが、忘れる、送気ガスを元の設定に戻すことを忘れる、あるいは送気ガス流量を間違えるなど様々なヒューマンエラーを経験したため、この定時的な作業は面倒と感じていて、理想とするウェットラング対策は、結露を発生させないことだった。

名付け親はだれ? ANNO法!

 我々は2009年から人工肺を長期間安定して利用するための工夫として、積極的なウェットラング対策を行い、その評価を目的に連続式血液ガス分析装置を回路に装着している。
 2008年当時の先進的なウェットラング対策はテルモ社が開発した人工肺のホルダーに加熱プレートを内蔵させたものだった。しかしそれを利用しても結露水は発生し、ウェットラング、血漿リークが数日〜1週間程度で発生していた。
 私にウェットラング対策の閃きがあったのは出張先のホテルの浴室だった。鏡を観ると加熱式プレートが内蔵されている部分だけ結露がついていない。良く見かけることだが、この日に限っては“テルモ社と一緒”だと思えた。そして浴室は中空糸内と同じ状態かもしれないとも思えた。さあ、鏡を乾かすための方法は何か?①浴室の換気を行う、②鏡の結露部分をドライヤーで乾かすことだった。ドライヤーもCOLD設定より、HOT設定、さらにTURBO設定にすることで鏡が早く乾くことは当たり前のことである。ワクワクしながら勤務先に戻り、ドライヤーと同じ効果が期待でき、温度調整が可能な装置を探した。見つけたのは、いつも利用する温風式の患者加温装置だった。軽い気持ちで人工肺の排気口にあてて、連続式血液ガス分析装置の値を観察しながら数時間待った。その間のPaO2値は温風装置装着前のように低下しなかった。そしてフラッシュを行ったところ、まったく結露水が出ないことに驚いた。その夜は数時間ごとにフラッシュを行うが全く結露水がでない。そしてPaO2値も低下することなく安定していた。翌日からは連続式血液ガス分析装置のアラーム(PaO2低下)が鳴ってからフラッシュを行う指示に変更して頂いたが、フラッシュは不要で看護師からは“ECMOのことは何もしなかったよ”と言われた。数日後ECMOから離脱し、人工肺の膜が観察できるように人工肺の上下端をのこぎりで切断、人工肺に直接エアーガンを当てフラッシュしたが、全く結露水が出なかった時はさらに驚いた。その時切断方法を教えてくれたメーカーの方には“安野さん、何をしたの?”と言われ、喜んだことを覚えている(図1)。
 その後は臨床経験を重ねながら、このウェットラング対策の効果を調べるために半年ほど時間を要し、2010年48回大会(仙台)で報告させて頂いた。この方法も10年経過し、多く方に興味を持って頂き、効果を検証するための研究もされていた。私も多くの方に説明させて頂いたが、あまりに方法が簡単すぎたこと、人工肺に向けて逆風を当てることに半信半疑の様子だった。現在、どれほどの施設で利用されているか分からないが、多くの患者のために利用されていれば光栄なことである。またいつからか、この方法を検証された方から『ANNO法』と名付けて頂けたことは恥ずかしさも感じるが有り難く思っている。

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図1
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図2:ガス送気圧の変化量(提供:羽鳥翔太)

まとめ〜チャンスは自らつかむもの〜

 人工臓器を利用する者として不便に感じ、『何か良い方法は?』と思うことがあるはずだ。この例では人工呼吸器で学んだ“加湿の知識”がヒントになった。多くのことを学び視点を増やすことで、飛び交うチャンスに気がつけるはずである、そして閃いた時はぜひ自ら行動を起こして頂き、未解決な点を解き明かしていただきたい。
 最後にこの場をお借りして、私のような者の思いつきでも、臨床に導入させて頂けたことを金子達夫先生、江連雅彦先生には感謝申し上げ、このエッセイを終える。

次回のエッセイは、2019年夏頃を予定しております。

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