人工臓器について

(Q1)
人工臓器の定義について教えてください。

(A1)
人工臓器は、生体臓器(または組織)の機能の一部(または全部)を一時的に(または半永久的に)代行する人工(または半人工)の装置のことです。しかし言葉で述べる以上に、上の定義は色々な解釈ができます。たとえば、非常に広く捉えれば、入れ歯、松葉杖、メガネなども上の定義に当てはまりますので、広義の「人工臓器」かもしれませんが、普通はこのようなものをさしてわざわざ「人工臓器」と呼ぶことはありません。広く知られている人工臓器は、人工心臓、人工肝臓、人工腎臓などのように、主に胴体に含まれる内臓の機能代行装置です。首から上では、「脳の科学」や「人工知能」の研究を、人工臓器に含めることは稀ですが、人工聴覚や人工視覚は人工臓器の分野で扱われています。人工鼻は人工呼吸時に使用する加温・加湿装置のことで、嗅覚はありませんが、やはり人工臓器の一つと考えて良いでしょう。
 生体機能を模倣するために、駆動メカニズムまで模倣している場合(拍動型人工心臓など)と、機能を代行することだけを考えて異なるメカニズムで運転されている場合(軸流型人工心臓、人工腎臓など)とがあります。
 当学会では古典的な意味での人工臓器に加え、ハイブリッド型人工臓器や再生医療を含めた、最新医療科学について毎年さまざまな研究発表がなされています。

(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)

(Q2)
将来、人工臓器や再生医療の研究がしたいのですが、どのような大学、大学院がありますか?また、どのような就職先(企業)がありますか?

(A2)
当学会では、進路先について具体的な大学名や企業名を挙げてご紹介することは行っておりません。インターネットなどを利用して検索することをお勧めします。ここでは研究者の所属する組織の形態についてご説明しますので、検索の際の参考にしてください。組織の規模でいうと人工臓器の研究者は、
  1.  研究所単位で集合している場合
  2. 医学部や工学部またはその合同の大学院に集合している場合
  3. 学科単位で集合している場合
  4. 研究室単独で研究が行われている場合
の4つに分けられます。「1」の場合には病院を併設している場合もあり、専門に関するあらゆる人工臓器についての研究・開発、ならびに臨床(治療)が行われています。「2」の場合も「1」とほぼ同様ですが、最近は大学の垣根を越えた組織も構築されています。「3」は特に臨床工学技士の養成を目的とする学科に多いようですが、現在では大学院博士後期課程まで設置されているところもあります。「4」の研究者は工学系に多いのですが、大学名、学部名、学科名には「人工臓器」に関する記述がないので探しにくいかもしれません。その研究者の名前を直接検索する他はないでしょう。
 大手の医療機器メーカは何らかのかたちで、人工臓器関連の事業を行っていることが多いようです。自分が将来やってみたい研究領域や人工臓器の名称をキーワードに、検索をかけるのが早道です。

(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)

(Q3)
最先端の人工臓器について取材したいのですが、どのようにすれば良いですか?

(A3)
当学会では、一般の方に対する人工臓器の啓蒙活動、青少年の学習等のために、取材をお受けしています。当学会に対する正式なご依頼は、組織長(社長・学校長)から、当学会の理事長宛、文書でご提出いただいています(定型の書式はありません)。(持ち回り)理事会で承認後、ご依頼をお受けすることになります。理事長が上記の目的にそぐわないと判断した場合には、取材をお断りさせていただくこともありますので、予めご了承下さい。

(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)

(Q4)
(市民講座などで)人工臓器について取り上げるので、専門家をご紹介下さい。

(A4)
一般の方に対する人工臓器の啓蒙活動、青少年の学習等が目的である場合、できるだけご協力いたします。しかし一般に人工臓器の研究は、臓器別に行われているため、たとえば、人工心臓の専門家が必ずしも人工肝臓について詳しい知識を持っているわけではありません。つまり「人工臓器」全体に関わる専門家というのは、ご紹介いたしかねます。お尋ねの際には、どの分野の研究者か、臨床系(医師)か工学系(工学系研究者および企業研究者)か、どの地域で行われるイベントかなどについてお知らせ下さい。

(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)

(Q5)
(中学、高校、大学の)講義で使う資料を提供していただけますか?

(A5)
学会としてご提供できる講義用資料の用意はありません。当ホームページ上には、各人工臓器について、イラストを交えて簡単に紹介した部分がありますので、こちらをご利用下さい。また、一般の方向け、学会員向けのそれぞれのページに、1990年以降に発刊された図書を紹介した部分がありますので、合わせてご利用下さい。

(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)

(Q6)
(学園祭、展示会などで)人工臓器に関する展示をするので、資料をご提供下さい。

(A6)
当学会には各人工臓器について、展示用パネルを用意しています。現状復帰を条件に無料で貸し出しております(ただし、往復の送料はご負担いただいております)。貸出期間が重複することがありますので、時間的に十分な余裕を持ってお問い合わせください。

(湘南工科大学工学部マテリアル工学科 山下明泰)

(Q7)
人工臓器を使うことで、生体にどのような影響が考えられますか?

(A7)
(回答準備中)
(大分大学医学部第二内科 友 雅司)

人工心臓について

(Q8)
人工心臓の開発はどこまで進んでいますか?

(A8)
世界中で心臓移植が必要な患者さんは10万人いるといわれていますが、実際に心臓移植を受けた患者さんはわずか3500人しかいません。つまり、心臓移植は重い心臓病の患者さんの一般的治療法としては限界があります。このため半永久的に心臓の代わりをする補助人工心臓の開発が盛んに行なわれています。
 このような補助人工心臓システムは、患者さんが社会復帰できるように、小型埋め込み型で耐久性に優れ、制御装置、バッテリーもポータブルなシステムでなければなりません。このため、拍動流式から遠心ポンプあるいは軸流型へ、空気駆動型から電気駆動型へ、軸受け方式から磁気浮上型へと進化しています。
 ヨーロッパでは既に補助人工心臓の使用が認められ、1つのポンプで7年半にわたって使用された例も出ています。これは直径25 mm、長さ55 mm、重さ85 gの軸流型ポンプで、耐久性に優れたセラミック軸受けを使用し、制御装置とバッテリーはベルトに取り付けるタイプです。この患者さんは、普通の生活を送り、ゴルフ、登山なども楽しんだということです。更に最新のものでは、耐久性と血液への影響を小さくするため、磁力を利用して羽根車を浮上させたまま回転できるものも現れています。
 日本では国産の最新式磁気浮上型遠心ポンプの治験が進行中です。これから数年のうちに、末期重症心不全の患者さんの新しい治療法として補助人工心臓が登場することが期待されています。

(泉工医科工業(株) 神谷勝弘)

(Q9)
IABPと補助人工心臓(VAD)について教えてください。

(A9)
人工心臓に関してはこのホームページに説明されていますので、ここではIABP(Intra Aortic Balloon Pumpの略)を補助人工心臓(Ventricular Assist Devices; 以下VADと称します)と比較して説明しましょう。
 IABPとは、大動脈の中に留置されたバナナのような形状のバルーン(風船)を、心臓の動きに合わせて膨張・収縮させるものです(下図参照)。心臓から大動脈へ血液が拍出される時(心収縮期)にバルーンを縮めて、血圧を下げて心臓を収縮しやすくし、心臓が血液を吸い込む時(心拡張期)にはバルーンを膨らませて、血圧を高めて冠動脈の血流を増加させます。この二つの働きにより、心臓自体の機能回復を促します。これに対して、VADは心臓と並列に設置された血液ポンプで全身への血液循環を維持するもので、心臓の機能を代行することも可能です。VADは現在国内では、およそ年間50症例に使用されています。
 IABPのバルーンは、検査カテーテルなどと同様な手技で大腿動脈から体内に挿入でき、VADの場合のような外科手術は不要です。そのためIABPは、循環器内科で使用されています。IABPは心筋梗塞などで低下した心臓の機能が回復するまで、多くの場合集中治療室などで1週間程度使用されます。VADのように長期間使用することはできないので、患者を歩行させる目的や心臓移植までのつなぎ(ブリッジユース)には用いられていません。IABPは現在国内では、およそ年間2万症例に使用されています。

(泉工医科工業(株) 神谷勝弘)



人工血液について

(Q10)
人工血液の現状について、教えて下さい。

(A10)
人工血液の開発の経緯は古く、1960年代から続けられています。人間の血液は大きく分けて、液体成分である血漿と有形成分である細胞に分けられます。細胞のうち、血液の最も重要な役割である酸素運搬を担っているのが赤血球で、血液を固める役割を担っているのが血小板です。人工血液の開発の大部分は、この赤血球と血小板の開発です。
 人工赤血球の開発の方法には二つの考え方があります。一つは酸素をよく溶かし込めるパーフルオロカーボン(PFC)という物質を用いるもの、もう一つは本物の赤血球と同じように酸素と結合できるヘモグロビンを用いるものです。PFCは酸素をたくさん溶かし込めるので、水と混合して強烈にかき混ぜて牛乳のような乳化液として用います。PFCは体には無害ですが、血液の中で乳化した粒が不安定になり、血液を凝固させて詰まらせたり、臓器に影響を及ぼしたりするといわれています。ヘモグロビンを用いる方法では、血液から分離したヘモグロビンを、油の分子を使って作製したカプセル内に封じ込めます。血液と同じような酸素運搬能を有しますが、こちらもカプセルが不安定で血中で壊れたり、毛細血管に詰まってしまう問題がありますが、最近の技術革新によりかなりの問題が克服されつつあります。近い将来、脳卒中や心筋梗塞など緊急に臓器に酸素を供給する必要のある場合から応用が始まることでしょう。

(東京医科歯科大学生体材料工学研究所 岸田晶夫)

再生医療について

(Q11)
再生医療とは何ですか?内蔵は人工的に作ることができるんですか?

(A11)
病気やけがで失われた臓器や組織を再生して元に戻す医療が再生医療です。1996年に米国のランガー教授とヴァカンティ教授が共著で提案した「Tissue Engineering(組織工学)」から爆発的に世界中に広まりました。もともとはそれ以前からやけど治療用の人工皮膚の開発で同じような考え方が用いられていましたが、ランガー教授らのネーミングが人々の心をつかんだのでしょう。Tissue Engineering(組織工学)は再生医療を支える技術です。再生医療は英語で「Regenerative Medicine」と表現します。研究者らの間では厳密な区別はないようです。国際的な学会も両方の名称を冠しています。
 再生医療の目標は人間のあらゆる臓器、組織を再生することですが、現在はまだそこまで至っていません。最も成功している例は、人工皮膚、角膜、軟骨です。これらは、患者から分離した細胞を用いて生体外で元の組織に近いものに育て上げ、これを患者の患部に移植します。他に、筋芽細胞の移植による心筋の再生、骨髄細胞を用いた人工関節の固定力向上、幹細胞移植による末梢循環不全の治療などが試みられています。
 再生医療の最も重要な要素は、組織や臓器を再生するための細胞の確保です。自分の細胞を用いればよいのですが、組織を再生するには長い時間がかかるため、緊急時には対応できません。そこで、他人の細胞を用いてあらかじめ臓器をつくる、細胞がなくても機能が発揮できる人工組織をつくるなどの方法が考えられています。最近注目を集めているのは、iPS細胞です。各人が自分のiPS細胞を作って組織を再生できれば細胞の問題は解決できます。現状で最も効果的な方法として、組織が再生するまで人工臓器で機能を補完する方法が提案されています。これは人工臓器の新しい使い方として注目されています。

(東京医科歯科大学生体材料工学研究所 岸田晶夫)

人工肝臓について

(Q12)
肝臓と人工肝臓の働きについて教えてください。

(A12)

 肝臓は「人体の化学工場」ともいわれるほど、人体の代謝反応において中心的役割を果たしています。わかっているだけで500種類以上の機能を担っていますが、それらは全てひとつひとつの肝細胞によって実現されています。それらは,糖・脂肪・タンパクといった三大栄養素の中間代謝(合成供給・貯蔵・分解),チトクロームP450と呼ばれる酵素を中心とした薬物代謝・解毒反応(水溶性物質に変換),脂質の腸管吸収を助け薬物毒物の排出にも使用される胆汁の合成(小腸の始めの十二指腸へ分泌される)、ビタミン・鉄の貯蔵と供給などが主なものです。

 肝臓のマクロ・ミクロな構造に着目すると、上記の代謝反応に適した構造をとっていることがわかります。まずマクロな循環系をみると、肝臓には酸素供給用の肝動脈のほかに、栄養素のほとんどが吸収される小腸から腸間膜を経て、門脈と呼ばれる血管が直接流入しています。この2つの血管は内部で合流して、肝静脈となり心臓を経て全身に回ることになります。つまり腸管から吸収された栄養素や毒性物質は、肝臓での代謝反応を受けないうちは全身に回ることができない構造となっています。さらにミクロな構造に着目すると、肝細胞はおよそ二層に並び、微小な穴の開いた特殊な血管内皮細胞層を介して、血流と高効率で接触ができるようになっています。隣り合った肝細胞同士の結合部分には微小胆管が伸びていて、これが肝臓全体で合流して胆汁となり、胆嚢に貯蔵された後に十二指腸へ分泌されます。

 このような肝臓の機能を人工的な装置で総括的に置き換えることは非常に困難であることから、「人工肝臓」としては,装置の内部に動物などの肝細胞を固定化するハイブリッド型のものについて研究が行われてきています。詳細は本ホームページの「人工臓器とは?」から「人工肝臓」のページをお読みください。装置開発に関する工学的な課題はひとまずほぼ解決されており、今後の課題は、ヒト正常肝細胞を如何に多量に得ることができるかである、といっても過言ではありません。この視点からは,ES細胞やiPS細胞から大量に能率よく肝細胞を得る技術の確立が強く望まれます。

 

(東京大学生産技術研究所 酒井 康行)


組織工学について

(Q13)
ティッシュエンジニアリングを始めたいのですが、どのような知識や設備が必要ですか?

(A13)

 ティッシュエンジニアリングの成功のためには、異なる学問分野の成果を適切に融合する必要があります。よく言われる組織工学の三要素としては,幹または前駆細胞,細胞の担体となるマテリアル、培養に必要な分化増殖因子、が挙げられますが、1・3番目は基礎医学・基礎生物学といった学問が、2番目は応用化学といった学問が、それぞれ研究を担ってきています。これに加えて、未熟な組織臓器を生体外で育成するために生物工学と、最終的な治療効果を評価してその結果を開発にフィードバックするための臨床医学、なども三要素に加えて必須であると考えています。従って、ご自身の専攻分野以外の最低限の知識と方法論を学ぶ必要があります。この目的のために、やや古くなってしまいましたが、京都大学の岩田博夫先生の書かれた「生体組織工学」(産業図書,1995年)を推薦いたします。一方、組織工学・再生医療の到達度は目的とする組織臓器によって様々で、日々進歩しています。これらについては,多数のよい成書が出版されています。もし,他分野とは言えある程度研究の経験を踏まえているならば、広範な知識を隈なく習得しようとするよりも、まずは目的意識的に必要な知識・技法を学び、予備的に研究を始めてみるのがいいかと思います。

  実験に必要な設備ですが、まずは通常の細胞培養用のものは最低限必要となります。これに加えて動物実験を行うとなれば、動物飼育設備が必要となります。担体は簡単なものならば、ちょっとした努力で自作は可能ですが、今は市販のものも出ています。バイオリアクターを使った組織育成まで進めるとすれば、それらの装置を購入する必要があります。組織工学・再生医療の目的で細胞を培養する上で最大の問題は、培養液や増殖分化因子が極めて高価なことです。これも目的とする組織臓器と出発細胞に何を用いるか、によりますので、具体的に考える必要があります。

 

(東京大学生産技術研究所 酒井 康行)

人工腎臓について

(Q14)
血液透析濾過は他の人工腎臓治療とどこが違うんですか?

(A14)

血液濾過透析(hemodiafiltration)は血液透析と血液濾過を同時に行う血液浄化法の一種です.血液透析および血液濾過と血液濾過透析との施行方法の違いを図1に示しました.図に示す血液浄化器は中空糸型の血液浄化器です.このタイプの血液浄化器は半透膜でできたストローのような形状をした中空糸を500010000本束ねて作成されています.

  図において血液を中空糸の内側に上から下方向に流した場合,一番左に示す血液透析では透析液を中空糸の外側に下から上に流します.血中の物質は中空糸の内側を流れる血液から外側を流れる透析液に拡散の原理で移動します.その結果血液を浄化することができます.図の真ん中に示す血液濾過では中空糸の外側に陰圧をかけます.血中の物質および水分は中空糸の内側から外側に対流の原理で移動します.その結果血液を浄化することができます.一番右に示す血液濾過透析では中空糸の外側に透析液を流すことで血液透析を行いつつ,中空糸の外側に陰圧をかけることで血液濾過も同時に行います.その結果血中の不要物質は拡散と対流の両方の原理で中空糸の内側から外側に移動します.つまり血液濾過透析は血液透析と血液濾過を同時に行う血液浄化法で,血液透析の優れた小分子量物質除去性能と,血液濾過の優れた中分子量物質除去性能を同時に兼ね備えた,理想的な人工腎臓治療と言えます.

  ではこのような理想の血液浄化療法が最近になってようやく臨床応用される様になったのはなぜでしょうか?

 

 

  ここで血液浄化膜の進歩についてご説明したいと思います.先に示したように,血液透析は物質の拡散現象を利用して血液浄化を行う治療です.そのため,物質が拡散しやすいように血液透析器に使用される半透膜はとても薄く作られていました.薄く作るが故に強度の問題で,あまり大きな孔を半透膜に開けることができませんでした.

  一方,血液濾過は対流現象を利用して血液浄化を行う治療です.そのため濾過する際の圧力に耐えられるように半透膜の膜厚を厚くし強度を高めていました.膜が厚く丈夫なので大きな孔を半透膜に開けることができました.つまり以前は透析用の膜と濾過用の膜は全く異なる構造をしており,透析と濾過とを同時に施行する血液透析濾過に使用するにはどちらの膜も適していませんでした.成膜技術の発展に伴い,透析膜は膜孔径をより大きく,濾過膜は膜厚をより薄くすることが可能となりました.これが現在のhi-performance membraneと呼ばれる膜です.この透析にも濾過にも適した高性能な血液浄化膜が誕生したおかげで,血液濾過透析が可能となりました.

 

 

  余談ですが血液濾過透析の名称についてお話しします.血液濾過透析の英語表記はhemodiafiltrationで,HDFと略されます.Hemodiafiltrationを直訳しますと血液透析濾過となります.しかし,HDFに古くから携わる臨床家の間では語呂の関係から血液濾過透析と称することが多く,血液透析濾過と血液濾過透析の呼び名が混在しています.本解説においては私が呼び慣れた血液濾過透析に統一させていただきました.

(山梨大学医学部救急集中治療医学講座 松田兼一)

(Q15)
急性血液浄化法について、基礎的な情報が欲しいのですが。

(A15)

急性血液浄化法とは,慢性維持透析に代表される慢性疾患に用いられる血液浄化法の対極に位置する,急性期に用いられる血液浄化法の総称と考えられていることがあります.しかし,日本急性血液浄化学会の欧文名にJapan Society for Blood Purification in Critical Careが用いられていることからもわかるように,急性血液浄化法とはICUに収容されているような重症症例に対して施行する血液浄化法の総称とすべきと考えています.

 

急性血液浄化法について筆者が推薦図書を下に示します.ご参照下さい.

 

 

 

左から

急性血液浄化法,平澤博之編,1999,総合医学社,東京

CHDFの理論と実際—原理・施行法編-,平澤博之編,1998,総合医学社,東京

CHDFの理論と実際—各種疾患応用編-,平澤博之編,1999,総合医学社,東京

急性血液浄化法-あんな症例・こんな症例-,平澤博之編,2006,医学図書出版,東京.

(山梨大学医学部救急集中治療医学講座 松田兼一)

(Q16)
ダイアライザの性能評価には、決められた方法があるんですか?

(A16)
血液透析などに用いられる血液浄化器を、ひとりひとりの患者に適切に選択するためには、その性能が客観的な方法で評価されていなければなりません。この性能評価法については、いろいろな学術団体によって検討されてきました。古くは水溶液系の評価法が日本人工臓器学会から提案されており1)、基本的な方法論は他の評価法に受け継がれています。血液系の評価法を含み、現在、最も信頼されているのは日本透析医学会によるものです。この中には、血液浄化器の性能の分類と性能評価の方法が規定されています2)。なお、2008年に一部が修正されています3)。具体的には、血液浄化器の透水性を表す限外濾過率、溶質透過性を表すクリアランス、濾過に伴う溶質の透過率を表すふるい係数について、その測定法ならびに推算法について記載されていますので、ご参照下さい。

文献
  1. 日本人工臓器学会:ダイアライザー性能評価基準、日本人工臓器学会, 1982.
  2. 佐藤 威、斉藤 明、内藤 秀宗、鈴木 正司、秋沢 忠男、篠田 俊雄、峰島 三千男、金 成泰、秋葉 隆:報告 各種の血液浄化法の機能と適応 - 血液浄化器の性能評価法と機能分類、透析会誌 29: 1231-1245, 1996.
  3. 秋葉 隆、川西秀樹、峰島三千男、政金生人、友 雅司、川崎忠行、西沢良記:透析液水質基準と血液浄化器性能評価基準2008、透析会誌 41: 159-167, 2008.
(東京女子医科大学臨床工学科 峰島三千男)

(Q17)
装着型あるいは体内植え込み型人工腎臓の研究はどこまで進んでいますか?

(A17)
結論からいえば、残念ながら現状ではほとんど進んでいません。人工腎臓による血液透析はすでに臨床応用に成功してから60年超の歴史があり、技術的には確立していますが、この治療は週3回、1回4時間程度、間歇的に行われるのが普通です。人工腎臓を装着もしくは体内に植え込むことによって、生体腎臓と同等の機能を発揮させようとする発想はかなり以前からありましたが、それを困難にしている一因は、生体と人工腎臓が接触する部分(インターフェース)の医療材料といえるでしょう。血液の体外循環には抗凝固薬の使用が不可欠ですが、適切に使用しても血栓や凝血塊が形成され、人工腎臓の交換を余儀なくされることがあります。この意味では、他の人工臓器治療同様、生体適合性の高い医療材料の開発が待ち望まれます。
 人工腎臓を用いた治療の長時間化、連続化が有効であることは、すでに臨床的にも明らかになっています。近未来の人工腎臓治療として、現在の血液透析を長時間化または頻回に行うものが注目されている。夜間在宅で就寝中に、安全に施行可能な透析療法が実現すれば、患者の病態は大幅に改善されるでしょう。これには、体外循環を連続的に監視するモニタリング技術とそれを安全に施行できるような制御技術、すなわち装置の改良に依存する部分が大きいものと思われます。一方、遠未来の人工腎臓治療としては、尿細管機能を付加したハイブリッド型もしくはバイオ人工腎臓の研究が15年以上前から検討されています。ティッシュエンジニアリングによる再生医療、免疫寛容にもとづく異種移植、マイクロ・ナノ技術による超人工腎臓治療などの可能性に期待したいと思います。

(東京女子医科大学臨床工学科 峰島三千男)

動物用人工臓器について

(Q18)
獣医領域における人工臓器の製品や研究の現状について教えてください。
(A18)
生活水準の向上に伴って、ペットも家族の一員と見なす飼い主が増え、高度な治療を望むケースが増えているようです。そうした背景から、ペットの心疾患に対して、人工弁や人工心肺を使った手術を施し、腎不全に対しては人工腎臓治療(人工透析)を施すなど、人工臓器を使った治療が増えつつあるそうです。ヒト用の人工臓器とペット用のそれとの間に、原理的な違いはありません。ただしペットとなる動物は人間より小さく、生存力も弱いので、それに合わせた特殊なスペックが求められる場合も多いそうです。

 

詳しくは以下のサイトがお勧めです。

http://sc-smn.jst.go.jp/8/bangumi.asp?i_series_code=B040615&i_renban_code=008


(芝浦工業大学工学部応用化学科 吉見 靖男)

医療材料について

(Q19)

医療用材料に放射線を照射するときに注意すべき点を教えてください。

 

(A19)

人工臓器分野における放射線の利用は医療用具の滅菌が主体です。高圧蒸気滅菌、ガス滅菌(エチレンオキシドガス)、薬液による滅菌の対象にならない医療器具の滅菌に、γ線滅菌が用いられています。対象となる材料は多くの場合、高分子化合物ですので、その耐放射線性について概説します。

 放射線による高分子材料の劣化は主鎖切断型と架橋型に大別でき、材料の化学構造に依存します。主鎖の炭素に水素がない場合、例えばポリテトラフルオロエチレンでは主鎖切断型劣化、水素が多く結合している場合、例えばポリエチレンでは架橋型劣化を起こりやすくなります。一般に架橋型の方が主鎖切断型より耐放射線性に優れています。芳香族系の置換基を持った高分子(例えば、ポリスチレン)は構造上、吸収した放射線エネルギーを非局在化できるため、優れた耐放射線性を示します。一方、フッ素系(例えば、ポリテトラフルオロエチレン)では耐放射線性は低いといわれています。

 

                   汎用高分子の耐放射線性の比較

ポリスチレン>アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合物>>

ポリ塩化ビニル>ポリカーボネート>エチレン-プロピレン共重合物>酢酸セルロース>ポリプロピレン>ポリメタクリル酸メチル>ポリアミド(ナイロン)>パーフルオロエチレン-プロピレン共重合物>>

ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)

 

参考文献:大澤善次郎:高分子の寿命予測と長寿化技術, NTS, 1992, p.111

(三重大学大学院工学研究科分子素材工学専攻生体材料化学研究室 堀内 孝)


ハイブリッド人工臓器について

(Q20)
ハイブリッド人工臓器について教えてください。

(A20)
ハイブリッドとは、雑種、混成を意味します。つまり、二つ(またはそれ以上)の異質のものを組み合わせて、一つの目的を達成することになります。ハイブリッド自動車は、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたものですね。人工臓器でいうハイブリッドとは、生物と人工物の組み合わせのことです。細胞と人工材料を組み合わせて作る人工臓器、それが現在考えられているハイブリッド人工臓器です。なぜハイブリッドにするかですが、臓器移植の欠点(提供臓器の不足、拒絶反応等)と人工臓器の欠点(生体機能を完全に代行できない等)を補い合って、すばらしい人工臓器となる可能性があるからです。人工肝臓、人工すい臓、人工血管や人工皮膚などの分野において、ハイブリッド型デバイスの研究開発が進められています。最近では細胞の取り扱いが難しい腎臓についても、ハイブリッド型人工腎臓の研究が進んできました。この中には、すでに臨床に用いられたものもありますが、治療学として定着するには、治療中だけでなく、治療が終わった後を含めた安全性について十分な検討が必要とされています。

(北海道大学医用電子工学研究所 村林 俊)

人工膵臓について

(Q21)

人工膵臓とは何ですか?

 

(A21)

人工膵臓については、当学会ホームページに説明されておりますので、ご参照ください。

  大きく分けると、機械装置(エレクトロメカニカル)と、再生材料(バイオマテリアル)を使用したものに分けられます。機械装置を使用した、ベッドサイド型の人工膵臓は、主に次の要素で構成されています。

・血糖値を測定するセンサー

・血糖値を制御するのに必要な薬(インスリン、グルコース)の投与量を計算するコンピュータ

・インスリン、グルコースを注入するポンプ

  糖尿病診断のもとになるデータを採取したり、目標とする血糖値に自動的に制御することができます。

(高知大学医学部外科学講座外科1 花崎和弘)

(Q22)

人工膵臓は、どのような患者に使用されますか?

 

(A22)

大きくは検査目的と、治療目的で使用されます。

1)      検査目的

 糖尿病の疑いがある患者さんの重症度診断(グルコースクランプ法による)

日々の生活に必要なインスリン量と投与方法の検討

2)       治療目的

 重症糖尿病患者さんの血糖管理

 外科手術中、手術後の血糖管理等

外科手術、救急・集中治療分野の人工膵臓による血糖管理については、参考図書をご紹介します。

救急・集中治療Vol.21 no.1112 p.1633-1637, 2009, 総合医学社。

(高知大学医学部外科学講座外科1 花崎和弘)

(Q23)

人工膵臓治療が受けられる施設は、全国に何ヶ所くらいありますか?

 

(A23)

現在、臨床使用されているベッドサイド型の人工膵臓については、検査目的および治療目的で、日本国内の大学病院を中心に臨床使用されております。当学会の2002年アンケート調査では所有施設数は148となっています。適用用途によって対象科が異なりますため、実際に人工膵臓で治療が受けられる施設につきましては、かかりつけ医に一度ご相談ください。

(高知大学医学部外科学講座外科1 花崎和弘)