アフェレシスは代用臓器ではありません

 代用臓器とは、だめになった臓器の代用品として用いる臓器のことです。人工腎臓や人工心臓など、ほとんどの人工臓器はその臓器の機能を代行する代用臓器です。しかし、アフェレシスは代用臓器ではありません。いわば新たな機能を行う将に人工的な臓器、それがアフェレシスです。 

言葉の由来とアフェレシス療法

アフェレシスとは、聞き慣れない言葉と思います。ギリシャ語から作られた言葉で、“強制的に取り去る”という意味を持っています。では、何を“取り去る”のでしょうか。アフェレシス療法では、病気の原因になるものなど、体にとって好ましくないものを“取り去る”ことを行います。O-157食中毒の治療に血漿交換という治療が行われましたが、この血漿交換はアフェレシスの一つの方法です。この治療では、O-157が作り出すベロ毒素を除去したわけです。O-157の治療だけではなく、アフェレシス療法は色々な病気の治療に用いられています。その場合、“取り去る”ものは、その病気によって異なります。血漿という血液の液体成分に含まれる病因関連物質や、血球成分である白血球などです。それらを除去することにより、病気の治療を行う人工臓器がアフェレシスです。 

アフェレシスの方法

 アフェレシスは、血漿成分の除去と血球成分の除去に分けることができます。

血漿成分の除去

1) まず血液から血漿を分離する-血漿分離法-

 血漿中に含まれる病気関連の物質を除くためには、まず、血液から血漿を分離するという操作を行い、次に血漿中からその物質を除去するという2段階の操作を行います。なぜ血液から直接除かないで、一旦血漿分離を行うかといいますと、結局、その方が安全にまた有効に物質除去を行うことができるからです。血液からの直接操作ですと、血液を固まらせる働きをする血小板や、外敵に対して戦う白血球などの反応が生じることもあり、なかなかやっかいです。でも、一旦、血漿に分けてしまいますと、そこには細胞がありませんから、容易にまた安全に物質除去が行うことができます。また、血漿分離法と呼ばれる血液から血漿を分ける方法が開発されたことも、2段階で行う大きな理由です。

血漿分離法には、遠心力で行う方法と合成高分子膜を用いる方法があります。血液中の細胞は、比重が血漿よりわずかに大きいため、遠心力を与えると、底にたまり、血漿と分離ができます。これを遠心分離法といいますが、血漿分離法では連続的に血漿分離を行うことができる装置が使われています。つまり、患者さんから血液を体外に出し、遠心分離により血球成分と血漿成分に分け、血漿中から病因関連物質を除き、浄化された血漿を血球成分と合わせて患者さんに戻します。合成高分子膜を用いたもう一つの方法は、膜型血漿分離法と呼ばれています。その膜は色々な高分子素材から作られていますが、どれも0.2-0.4μm程度の小さな孔が空いていることに特徴があります。つまり、フィルターなわけです。そのフィルターの孔の大きさですが、血液中の細胞で一番小さな細胞が血小板で、その大きさの1/10程度のサイズです。ですから、その膜に血液が流れますと、液体成分の血漿は漏れ出てきますが、血球成分は通過できません。実際の血漿分離膜は、マカロニのような中空糸になっています。その内部に血液を流し、血漿を分離します。その血漿の中に除きたい成分が含まれているわけでして、その成分の除去操作を行います。

2) 次に病因関連物質を除く-血漿成分除去法-

 血漿中から病因関連物質を除く方法として、次の4つの方法が行われています。

a)血漿交換法

 分離した血漿を全て廃棄します。でも、そうすると体に必要な成分も無くなってしまいますので、健康な人から得られた血漿を戻します。また、場合によっては、血液中のタンパク質の中で一番量が多いアルブミンを代わりに使うこともあります。分離した患者さんの血漿を捨て、代わりの血漿を加える、つまり血漿を交換するので、血漿交換法と呼ばれています。肝臓が機能しなくなったときなど、除きたい成分が多数ある場合に用いられています。また、O-157のように、その成分を除く方法が見つからない場合にも用いられています。

血漿交換法は、体に必要な成分まで全て捨ててしますので、非常にもったいない方法といえます。必要なものはなるべく残し、病因関連物質を選択的に、除くことが望まれますが、その方法として以下の3つの方法が開発され、臨床で用いられています。

b) 二重膜濾過法

 分離した血漿を、再度、別の膜で濾過し、病因関連の血漿成分を除きます。そのため二重膜濾過法と呼ばれます。成分濾過に用いる膜の孔のサイズは、血漿分離膜と較べ一桁小さく、大きな成分を通さずアルブミンなどの比較的小さなタンパク質は通過可能です。除きたい成分が、抗体や抗体と抗原が結合したものなど比較的大きな分子の場合に用いることになります。より選択的な除去が可能となるわけです。

c)冷却濾過法 

 病因関連物質を多く含む血漿は、冷却すると白濁することがあります。これはその物質が冷却によって集まりクライオゲルというものを作るためです。いわば凝集体ですので、比較的大きな粒になります。そのため、膜により濾過が容易となります。この性質を利用し、血漿を冷却して膜濾過を行う方法が冷却濾過法と呼ばれています。

d)吸着法

 病因関連物質が特定できた場合、その物質を特異的に吸着させる材料を用いることによって、その物資のみを除去することが可能です。いわば究極の除去法といえます。色々な吸着材が使われていますが、代表的なものに悪玉コレステロール(LDL)の吸着材があります。これによって、動脈硬化の治療が行われています。その吸着材を図1に示しました。その表面は、硫酸デキストランというマイナスのひげが付いています。LDLやVLDLはプラスのチャージを持っていますので、プラスとマイナスで引き合って吸着することになります。一方、善玉コレステロールといわれるHDLはマイナスのチャージを持っていますので、反発し合って吸着はしません。このように、除去したいものの性質に基づいて、色々な吸着材が開発され、治療に用いられています。 

血球成分(白血球)の除去-白血球除去療法

 アフェレシス療法によって治療が行われる病気には、難治性疾患つまり治療困難な病気が多いのです。なぜ難治性かといいますと、免疫システムが自分に反応してしまって生じる病気など、自分自身が作り出す病気であるためです。液性成分の除去は、その反応によって生じた成分を除いていることになります。確かに効果があるのですが、時間が経つとまた増えてしまう場合も多くあります。なぜでしょうか。その成分を作っている細胞―白血球はそのままだからです。では、その白血球を除いてやればいいのではと思われるでしょう。そうです。その方法が実際行われていて、白血球除去療法と呼ばれています。

 白血球には、色々な種類がありますが、リンパ球や顆粒球を除くためには超極細繊維が、顆粒球を除くためにはセルロースアセテートの吸着材が用いられています。超極細繊維とは、メガネ拭きや人工皮革に用いられている繊維です。衣料に使われる繊維の1/10程度の直径で、わずか数μmの繊維です。図2に、その超極細繊維に吸着したリンパ球の電子顕微鏡写真を示しました。白血球除去療法は色々な病気の治療に用いられていますが、最近のトピックスは、重症・難治性潰瘍性大腸炎の治療に非常に効果があることです。これまでですと手術をし、大腸をとってしまっていた場合も多くありましたが、この治療法で改善することが示されています。また、エイズ患者などの治療にも用いられ始めています。 

アフェレシスの未来

 これからの日本は、人類が経験したことがない高齢化社会を迎えようとしています。でも、考えてみますと、高齢化と老化は違うはずです。高齢となっても、健康であり、仕事ができるのであれば、また新しく素晴らしい社会となるはずです。老化を少しでも遅らせること、これが今後の医療の大きなチャレンジであるわけです。そのため老化のメカニズムに関する研究が盛んに行われています。まだまだ分からないことが多いのですが、色々な原因で生じたもの-ここではゴミと呼んでみます-が、体の処理・修復能力以上に増えてしまい、色々な臓器が衰えてしまうためのようです。

 アフェレシスを考えてみますと、色々な病気の治療に用いられていますが、その病気の多くは、自らが作り出した病気です。それらの病気は、簡単にいうと、体が色々な原因で作り出したゴミを自らが処理できなくなった結果といえます。そのゴミを除く方法がアフェレシス療法なわけです。

高齢化によって生じたゴミもアフェレシスで除くことができないでしょうか。残念ながら、今のところ高齢化で生じたゴミと、病気で生じたゴミを一緒にすることはできません。しかし、将来、アフェレシスの技術が発展し、高齢化で生じたゴミを除くことも可能になるかもしれません。また、ゴミを少なくするようにできるかもしれません。そのような大きな夢をもたらしてくれるかもしれない人工臓器、それがアフェレシスなのです。 

Figure Caption 図1:LDL1吸着材、図2:リンパ球

図1.悪玉コレステロール(LDL)は、マイナスのひげに吸着する 


図2.超極細繊維に吸着したリンパ球の電子顕微鏡写真





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