リレーエッセイ

2023.09.20

第11回:マイナーをメジャーに

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作者プロフィール
氏名:天尾理恵
所属:東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部

はじめに

 人工臓器の業界では非常にマイナーな「理学療法士」の私で良いのだろうか?と思いつつ、バトンを受け取らせていただきました。異色なコメントになるであろうことをお許しいただき、お付き合いいただけますと幸いです。

人工臓器「補助人工心臓(VAD)」との出会い

 私が学生時代、循環器の講義では「VAD」について学ぶ機会はなく、単語に触れることもありませんでした。紐解くと私が現職場に入職した2002年、当院は心臓移植認定施設に認定され、心臓移植チームを作り始めていました。体外設置型VADを装着する患者が少しずつ増え、入職2年後に初めて当院初の小児VAD装着患者のリハビリテーション(リハビリ)を担当することになりました。それが私の初めてのVADとの出会いとなりました。

試行錯誤の1年間

 自身初の体外設置型VAD装着患者のリハビリは、心臓外科医や上司にアドバイスをもらいながら試行錯誤を繰り返す毎日でした。その頃、ようやく日本でも心臓リハビリが浸透し始めていましたが、私自身、心臓リハビリやVAD装着後の循環など十分な知識がない中、手探りでやっている状況でした。とにかく患者さんに元気になってもらいたいという想いで邁進した1年間、今更ながら無知の凄さを実感します。当時、小児移植はほとんど国内で行われておらず、担当患者さんは海外渡航移植へ旅立ちました。渡航前、食事が進まず著しく体重は減少し、活気がなくなっていくばかりとギリギリの状態でした。医師や看護師の協力を得て、気分転換ができるよう車椅子で院内を散歩するなど、笑顔が戻って欲しいという想いで病室に通い続けました。渡航当日、救急車で病院を出発した患者さんを見送ったあと、立ち尽くして泣きました。無事に移植ができますように、という想いと、ようやく次の医療者へバトンを繋いだことで、手探りで困惑しながら必死で治療に携わってきた責務から卒業できた、という安堵感が大きかったと思います。当時小学生だった患者さんは無事に移植に至り、今では立派な社会人。そんな元気な姿を見られることが、医療者にとって最大のご褒美だと実感しています。

VADと私、これから

 初のVAD患者との出会いで、すっかりVAD・心臓移植医療に魅せられ、今も変わらずVAD患者に携わっています。当時、心臓外科医からの「VAD患者のリハビリプロトコルを作った方がいい」とのアドバイスを受けてプロトコルを作成、また、上司からの「貴重な経験をしっかり論文にまとめなさい」との助言から、初の論文執筆に至りました。その後、修士課程の研究テーマをVAD患者のリハビリとして臨床研究を実施、研究の一環としてNew York Presbyterian Hospitalでの研修を実現し、アメリカと日本のVAD・移植医療の差を目の当たりにしました。そして、ここまでたくさんのVAD患者、医療関係者に出会い、多くの臨床意欲とエネルギーをもらえたことは、私にとってかけがえのない財産となっています。

 経験を発信し続け、多くの理学療法士にVAD医療を知ってもらいたい、人工臓器分野で理学療法士の存在を知ってもらいたい、という気持ちで、十数年を過ごしてきました。医療現場で多職種にサポート・ご指導をいただき、多くの施設の先生方と出会い、今の私があります。VAD実施施設・管理施設は限られ、加えて理学療法士はVAD管理技術認定士の資格取得対象職種ではないこともあり、理学療法士にとってVAD患者のリハビリはまだまだ非常にマイナーです。理学療法士にVAD医療を知ってもらうこと、VAD業界において理学療法士が患者の元気を取り戻すことができる存在であることを知ってもらうこと、「マイナーを少しでもメジャーに近づける」ことが、多くのVAD患者に出会うことができる私の役割だろう、と思っています。

おわりに

 私がVADと出会って20年、重症心不全治療は本当に大きく変わりました。これから先の未来、こんなことが現実になったんだ!という刺激的・革新的なVAD医療の世界が待っていることを期待しています。まだまだVADに魅せられたい、そんな気持ちでこれからも臨床現場に立ちたいと思っています。

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